宿に着いたのはずいぶん遅かったけれど、今朝は早く目を覚ました。朝食を済ませて宿を出ると、 村の案内をしてくれるティナがもう私を待っていた。

ティナは小柄な12歳くらいの女の子で、利発そうな顔立ちをしている。大きな目が、くるくるとよく動く。そんなに大きな村ではないから、迷うことはないのだけれど、何しろ日本語も英語も通じない村なので、英語の通じる通訳が必要なのだ。

ティナは私の前に立ち、まずは宿のまわりを案内してくれた。ティナは、アイボリーのシンプルなマントを羽織り、小さな籠を持っている。歩くたびに、マントのすそ飾りがリズミカルに踊る。

小川にかかった橋を渡るときに「あなたは、どんなお仕事をなさっているのですか」とティナが振り向いて尋ねた。きれいな英語だ。

「コンピュータの本を書いてます」と私は答えた。

ティナは立ち止まって「コンピュータの本」という表現に不思議そうな顔をした。そして、少し考えてからこう言った。

「村長も本を書きます。お会いになりますか」

ティナは私を村長の家に連れて行ってくれた。家が、村長の仕事場でもある。村長は50を過ぎたくらいで、がっしりした体つきをしている。ティナの話に耳を傾けてから、村長はわかった、というようにゆっくりうなずき、大きな手を差し出した。手が痛くなるほど強い握手だった。

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